日本酒造りに適した酒米を、酒造好適米といいます。山田錦は誰もが認める日本一の酒造好適米。山田錦の全国一の生産量を誇る兵庫県三木市を訪ね、そこで「吉川町山田錦村米部会」の会長を務める五百尾俊宏さんから山田錦についてお話を伺いました。
「山田錦は一九三六年に、兵庫県立農事試験場で誕生しました。吉川町はそれ以来、約80年にわたって山田錦を栽培しています。山田錦の最大の特徴は心白。そして粒が大きく、高度精米にも耐えられます。さらにタンパク質や脂質の含量が少ないといった特性を持ち合わせています」と五百尾さんは教えてくれました。
心白があると麹造り※のとき、米に麹菌が入りやすくなります。また精米歩合30%まで磨いても心白が壊れず、雑味の元となるタンパク質や脂質が少ないなど、山田錦は日本酒造りに必要な条件を満たす酒米中の酒米なのです。
※蒸し米に麹菌を増殖させる酒造りの重要な工程。
茎の長さ | 穂の長さ | 1株の 穂の数 |
田植えの 時期 |
穂の出る 時期 |
お米の 実る時期 |
玄米1000粒の 重さ |
お米の とれる量 |
心白 | 倒れにくさ | |
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山田錦 (酒米) |
106cm | 19.8cm | 18.6本 | 6月上旬 | 8月下旬 | 10月上旬 | 27.7g | 466kg/10a | 多い | 弱 |
キヌヒカリ (食用米) |
85cm | 17.4cm | 21.1本 | 6月上旬 | 8月上旬 | 9月中旬 | 22.6g | 581kg/10a | かなり少ない | 強 |
山田錦はさまざまな地域で生産されていますが、兵庫県三木市・吉川町の周辺地域は、山田錦の産地として最上級の「特A地区」に指定されています。なぜこの地域は「特A地区」と言われているのでしょうか。
「この地域の土壌は粘土質で、稲の生長に必要な成分が含まれています。また田んぼには高低差があり、昼と夜との寒暖差が大きい。そうした条件が山田錦の栽培に適しているのです」と五百尾さん。
神戸、灘五郷の蔵元の間には「酒米買うなら土地を見て買え」という言い伝えが残っています。灘の蔵元は、酒米づくりに最適の土地だと見極めた播州地方の酒米をこぞって求めました。そんな蔵元と播州地方の酒米産地との間には、「村米制度」に基づく強い結びつきがあります。
「村米制度」の始まりは、一八九〇年代に遡ります。酒米の産地と特定の蔵元が取引する現在の契約栽培に類する制度で、干ばつや水害といった災害の際にはお互い助け合うなど、産地と蔵元の間で深いつながりを築きました。「村米制度」がもたらした産地と蔵元の信頼関係は現在も吉川町を中心に続いています。
「毎年山田錦の収穫の時期には、蔵元さんたちが吉川町に来られます。それぞれ取引する集落の田を見て回り、その後は各集落で懇親会が行われます。蔵元さんがその年に造った素晴らしいお酒を賞味しながら、お米やお酒について語り合います」(五百尾さん)
現在、38集落ある吉川町と村米制度で結ばれている蔵元は9社。『辛丹波』をつくる大関もその1社に名を連ねています。
山田錦は食用米に比べると倒れやすく、また病気や害虫にも弱いため栽培しにくいお米です。栽培の難しい酒米をあえてつくり続ける理由を、五百尾さんに尋ねました。「食用米だと出荷した後、自分のつくった米がどうなるのか知ることはできません。しかし山田錦なら、村米制度で契約した蔵元さんがお酒という『顔』にしてくれます。自分のつくった山田錦が蔵元さんの優れた技術で醸され、素晴らしいお酒になる。こうした蔵元さんとの信頼関係があるからこそ、品質の良い山田錦をつくろうという情熱が湧いてくるんです」
『辛丹波』は、酒造りにおいて重要な位置づけを占める麹米に、山田錦を用いています。そのため杜氏をはじめ酒造りに携わる者は、山田錦のつくり手に感謝の気持ちを込めて、一粒一粒のお米を大事に扱います。厚い信頼関係のもと、最高級の山田錦をつくろうと情熱を傾けるつくり手と、その想いに応えて技を磨き良い酒を造ろうと尽力する蔵元。双方の情熱が相まって醸されるお酒が、旨くならないはずがありません。『辛丹波』は、山田錦をつくる人の想いや情熱が、しっかりと凝縮されたお酒なのです。
まったく精米されていない玄米の山田錦
ちょうど食用米程度に精米されたもの
本醸造酒や純米酒は精米歩合70%以下とされる
山田錦なら、ここまで削っても粒がしっかり残る
最高級の山田錦の産地、吉川町の情報発信と交流の拠点。
ミュージアム、レストラン、日本酒試飲所、特産品・農産物の販売所のある総合施設。
「吉川温泉よかたん」が併設されている。
〒673-1114 兵庫県三木市吉川町吉安222
TEL 0794-76-2401