「燗をつけて」。「私は冷酒で」。私たちはお酒の酒質に合わせて、または自分好みの温度で日本酒を楽しみます。冷酒から熱燗という幅広い温度帯で飲まれる日本酒は、世界でも珍しいお酒です。飲む温度によって味わいや香りを変える日本酒の奥深さにふれてみました。
いろいろな温度で日本酒を飲むようになったのはいつ頃からなのでしょうか。奈良時代の歌人である山上憶良が「糟湯酒をすすり」と詠んでいることから、少なくとも8世紀にはお酒を温めて飲んでいたと考えられます。
江戸時代の風俗画には湯煎をして燗をする様子やお酒を温める「燗鍋」が描かれ、庶民の間で広く燗酒が飲まれていたことがうかがえます。また、江戸時代には桃の節句(3月)から重陽の節句(9月)までを「冷や(常温)」で飲み、秋から冬の間は燗酒を飲むという風習がありました。日本酒を冷やして飲む「冷酒」は、冷蔵庫が普及してから広まった最も新しい飲み方です。
江戸時代、寒い時期に限って燗酒が飲まれていたのは体を温めるためだったとか。しかし、現在でも冷酒、冷や(常温)、燗という飲み分けがされているのは、飲む人の嗜好もあるものの、大きな要因はわずかな温度の差によって日本酒の味わいがきめ細かく変わるからです。
それは日本酒の温度帯の名称にも表れています。たとえば冷酒であれば5℃前後の「雪冷え」、10℃の「花冷え」、一方、燗は30℃が「日向燗」、35℃が「人肌燗」というように、5℃刻みで呼び方が異なります。
わずか5℃、されど5℃。日本酒は5℃の違いで多様な味わいを楽しむことができるお酒なのです。
「よい酒には五味がある」と言われてきました。五味とは「甘味・酸味・辛味・苦味・渋味」。お酒の温度を変化させることで、この五味を上手に味わうことができます。甘味は温度を上げると増し、体温と同じ37℃程度でピークを迎えます。苦味や渋味は低温で強く、温度が高くなると弱く感じられます。日本酒を燗にするとまろやかさが引き出され、ふくらみのある味わいになるのはこのためです。さらに温度を上げると、辛口のお酒はより切れ味の良い辛口へと変化します。
五味の中で酸は温度の影響をあまり受けませんが、リンゴ酸を多く含む日本酒は冷やして飲むと、シャープで爽快な印象になります。一方、乳酸を多く含むお酒は冷やすと刺激が強くなるため注意が必要です。日本酒を冷やして飲めば、甘味が抑えられスッキリしたキレのある味わいを楽しめます。
では、具体的にどのような日本酒が、燗や冷酒に向いているのでしょうか。一般に燗酒には酸味が強く濃醇な生もと造りや山廃仕込み、古酒などが向いているとされています。吟醸酒や生酒などフルーティーな香りを持つ淡麗なタイプは冷酒に向いています。
一方、日本酒の中には、どの温度帯であってもおいしく味わえるタイプがあります。それが本醸造酒です。本醸造酒の特長は、酒質が安定していて、香味のバランスに優れているところ。そのため、冷酒、常温、燗のどの温度帯にも合うのです。
本醸造酒といえば『辛丹波』。常温はもちろんのこと、「淡麗辛口」の『辛丹波』は、冷やすと淡麗がよりきわだち、温めると辛口がいっそう引き立ちます。また暑くなるこの時季に人気の日本酒カクテル「サムライロック」にもピッタリです。
「サムライロック」をはじめ、自分好みの温度帯が楽しめる『辛丹波』。温度を変えて飲むことで飲み飽きない酒『辛丹波』の魅力がより広がります。